

(公開日:2025年4月22日)
硫化水素は腐卵臭に代表される強烈な臭いを伴い、低濃度でも呼吸器や目の粘膜を刺激し、高濃度では生命に直結する重大な危険性をもたらす気体です。下水処理場や工場などの産業施設、トンネルの工事現場など幅広い現場で問題化しています。この記事では、硫化水素の危険性と具体的な対策について解説します。
硫化水素(H₂S)は、無色の気体で「腐った卵」のような特徴的な臭いを持っています。空気より重く水溶性の有毒な気体です。この臭いは非常に不快で、一般的には0.3ppm程度の低濃度でも多くの人が感知できると言われています。しかし、30ppm以上の高濃度になると、嗅覚疲労によって臭いの強さを感じなくなるという危険な特性があります。
硫化水素の危険性は主に以下の2点です。
硫化水素は青酸ガスに匹敵する、またはそれ以上の毒性を持っており、濃度によって様々な健康被害を引き起こします。
硫化水素濃度 | 人体への影響 |
---|---|
10ppm | 目の粘膜刺激を感知 |
20~30ppm | 嗅覚疲労、咳が起こる |
50ppm | 結膜炎、目の痒み、痛み、視野のゆがみが増す |
100~300ppm | 長期曝露により気管支炎、気管支肺炎、肺胞の損傷が起こる 48時間(100ppm)、1時間(300ppm)で肺水腫による窒息死 |
350~600ppm | 1時間(300ppm)、30分(600ppm)で生命の危機 |
700ppm | 硫化水素が分解されず脳神経に直接作用し、直ちに呼吸麻痺、失神を起こす |
1000ppm | 昏倒、呼吸停止、死亡 |
5000ppm | 即死 |
厚生労働省の統計によると2004年から2023年までの20年間に発生した労働災害は、酸素欠乏症が118件、硫化水素中毒が68件で、合計186件となっています。業種別では製造業で54件、清掃業で27件、建設業で22件と、特定の業種で集中的に発生していることがわかります。
労働安全衛生法では硫化水素の濃度が10ppmを超えると硫化水素中毒の危険性があるため、以下のようにガイドラインを定めています。
硫化水素はコンクリートや金属などの構造物に対して強い腐食作用を持っています。これは硫化水素が酸化して硫酸を生成し、その強い酸性によりコンクリートや金属を劣化させるためです。下水管路や処理施設では、この腐食により深刻な施設損傷が発生し、多額の修繕費用が必要になるケースも少なくありません。
下水管路は硫化水素が発生しやすい環境の代表例です。特に以下の条件で発生リスクが高まります。
下水中の有機物や硫酸塩が嫌気性細菌によって分解される際に、硫化水素が発生します。
製紙工場、食品工場、化学工場などの産業施設でも硫化水素が発生します。特に有機物を大量に含む廃水を扱う施設では注意が必要です。水産加工場では魚の腐敗過程で、畜産施設では糞尿処理過程で硫化水素が発生することがあります。
硫化水素の主な発生原因は、嫌気条件下(酸素がない状態)での有機物の分解です。汚水などが長時間滞留し、空気が供給されないと嫌気性細菌の活動によって硫化水素が生成されます。この反応は温度が高いほど促進されるため、夏場は特に発生量が増加する傾向にあります。
前述の通り、厚生労働省の統計資料によれば、2004年〜2023年の間に酸素欠乏症が118件、硫化水素中毒が68件の労働災害が発生しています。月別では7月に19件、8月に16件と夏場に多く発生する傾向が見られます。
代表的な事故事例としては以下の通りです。
これらの事故の多くは、測定や換気の不備、保護具の未着用など基本的な安全対策の不足が原因となっています。
硫化水素の危険性を管理するためには、適切な測定・モニタリングが欠かせません。
あくまで硫化水素対策の一環としての簡易的な測定としては、以下の二つが挙げられます。
専門的な測定や詳細なアセスメントには、専門業者への依頼をおすすめします。現場の環境や作業内容に合わせた最適な測定方法を提案してもらえるでしょう。もちろん対策を前提とされている場合には無臭元にもご依頼いただけます。
硫化水素対策としては、発生源の特定と抑制が基本です。工場ではプロセス制御の見直し、処分場では原因物質の埋立回避、産業プロセスではインヒビターの使用が有効です。
適切な換気システムの導入も必須といえます。防爆型・耐腐食性の排気設備を設置し、換気後は必ず測定器で濃度確認を行いましょう。物理的な遮断対策として、発生源の密閉やわずかな開口部からの侵入防止も重要です。完全遮断が難しい場合は脱硫装置の導入を検討します。
化学的・物理的・微生物的な処理による複合処理を無臭元では得意としています。後述する4つのアプローチで対策を行います。
また安全確保には検知システムの設置と個人保護具の使用が不可欠です。硫化水素検知器の設置や自給式呼吸器などの適切な保護具の着用を徹底しましょう。
無臭元では、様々な環境での硫化水素対策に効果的な薬剤と導入方法を提供しています。
無臭元の硫化水素対策薬剤は主に以下の4つのタイプに分類されます。
対策実施後の効果測定では、以下の結果が得られました。
薬剤 | 0時間後 | 24時間後 | 48時間後 |
無添加 | 80ppm | 230ppm | 600ppm |
300ml/L添加 | 検出限界以下 | 検出限界以下 | 58ppm |
400ml/L添加 | 検出限界以下 | 検出限界以下 | 検出限界以下 |
※検出限界以下:0.2ppm |
このデータから、400ml/Lの添加量で48時間以上にわたり硫化水素の発生を抑制できることが確認されました。
薬剤対策のメリットは以下の通りです。
硫化水素対策は、人命にかかわる重大な課題であると同時に、施設・設備の保全や周辺環境への配慮も必要とする総合的な取り組みです。適切な対策を講じるためには、専門知識と経験が不可欠です。
無臭元では、60年以上にわたる脱臭・消臭の専門技術と豊富な実績を基に、お客さまの現場に最適な硫化水素対策をご提案しています。「臭いで困っている」「設備の腐食が進んでいる」「作業環境の安全性を高めたい」など、硫化水素に関するあらゆるお悩みに対応いたします。
まずは現場の状況をお聞かせください。お客さまの課題に合わせた最適なソリューションをご提案いたします。