

(公開日:2025年9月4日)
排水処理施設から発生する臭気は、法令違反や作業環境の悪化、近隣からのクレームにつながるだけでなく、排水処理そのものの不具合を示すサインでもあります。安定した事業運営を維持するためには、適切に排水の臭気対策を講じることが大切です。
本記事では、下水処理施設や製紙業・食品工場・乳製品製造・化学工業など、有機系排水を扱う処理施設を主な対象として、排水臭気の発生要因や具体的な対策方法、業種別の対応事例まで現場目線で詳しく解説します。
排水処理における臭気問題を解決するには、まず臭気が「なぜ発生するのか」「どのような影響をもたらすのか」をしっかりと理解することが大切です。
ここでは、排水時に臭気が発生するメカニズムと、それが事業運営に与える影響について解説します。
排水から臭気が発生する主な要因は、以下のとおりです。
有機物の嫌気性分解は、最も一般的な臭気発生源です。酸素不足の環境下で微生物の働きで有機物を分解すると、硫化水素やメタンなどの悪臭物質が生成されます。
タンパク質や尿素の分解過程で生成されるアンモニアは、とくにpHが高い環境で揮発しやすくなります。また、特有の酸臭を発する低級脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)は、有機物の不完全分解により生成される物質です。
工業系排水では、揮発性有機化合物(VOC)や有機溶剤による臭気にも注意が必要です。これらは低濃度でも強い臭気を発するので、作業環境に大きな影響を及ぼす可能性があります。
排水から発生する臭気は、単なる不快な現象ではなく、排水処理システムの異常を知らせる重要なサインとして捉える必要があります。なかでも、微生物活性が低下すると分解不良が引き起こされ、その結果として悪臭物質が生成されやすくなります。
健全な排水処理では、活性汚泥中の微生物が有機物を効率的に分解し、臭気物質の生成を抑制してくれます。しかし、微生物活性が低下すると有機物の分解が不完全となり、中間生成物として悪臭物質が蓄積されてしまいます。
有機系排水の臭気対策には、微生物の状態を定期的にモニタリングすることが有効です。微生物の健康状態を把握することで、臭気発生の予兆を早期に察知し、適切な対策を講じることが可能となります。
排水臭気が発生したときに気をつけたいのが、以下の4つの影響です。
法令違反 | 【悪臭防止法】 特定悪臭物質または臭気指数によって、規制地域内では排水由来の臭気も規制対象となる。 |
【労働安全衛生法】 硫化水素やアンモニアなどの曝露リスク管理が求められ、作業者の安全確保が必要となる。 | |
【下水道法】 処理場に接続されている事業場に対しては、排除基準(BOD・アンモニアなど)超過による処理機能への支障や臭気発生が行政指導対象となる可能性がある。 | |
社会的・経済的影響 | 場合によっては、操業停止になるリスクもあり、仮に操業停止となると1日の稼働停止で数千万円の損失が発生する例も少なくない。 |
作業環境への影響 | 悪臭環境での長時間作業は、頭痛や吐き気、集中力低下などの症状を引き起こし、従業員の健康被害や作業効率の低下を招く恐れもある。 |
設備・施設への影響 | 腐食性ガスによる設備の腐食や劣化の加速、臭気物質の付着による清掃コスト増大のリスクが高まる。 |
このように排水臭気は、法令順守という基本的な義務を果たすためだけでなく、従業員の健康と安全を守り、業務効率を維持するためにも重要です。臭気問題を放置すると、企業経営における重大なリスクを引き起こす可能性が高まるため、予防的な対策が重要となります。
排水臭気の問題を効果的に抑制するには、「発生の原因を把握する」「臭気の発生そのものを防ぐ」「発生した臭気に対処する」という3つの視点から、段階的かつ多角的に対策を講じることが重要です。
以下の3つのアプローチを組み合わせることで、現場ごとの課題に応じた最適な排水の臭気対策を設計できます。
それぞれどのようなポイントに気をつければよいのか、詳しくみていきましょう。
臭気対策の第一歩は、まず自社で発生するリスクのある臭気、現在発生している臭気の程度や特性を正確に把握することです。
発生リスクのある臭気を知っていれば、おのずと対策法も見えてきます。すでに臭気が発生している場合は臭気測定を行い、「どのような臭気物質が・どの程度の濃度で存在しているか」を定量的に評価しましょう。
また、水質分析や顕微鏡による微生物診断(検鏡)を通じて、排水処理の状態を多面的に把握することも重要です。処理水の色調変化や泡の発生状況、pHの変動なども、処理状況の異常を示す情報として活用しましょう。
このように、測定・分析・観察によって臭気の特性と排水処理の状態を見える化することが、適切な発生源対策および処理技術選定の見極めにつながります。
排水臭気の根本的な解決には、臭気の発生源そのものに対するアプローチが最も効果的です。
とくに、有機系排水処理施設においては、排水処理プロセスの最適化が「間接的な臭気対策」として極めて重要な役割を果たします。
まずは、排水プロセス全体を詳しく把握して、臭気発生の原因となっている工程や条件を特定しましょう。原因特定調査では、各工程における水質変化や負荷変動、処理条件に加え、微生物の活性状態などを総合的に評価します。
なかでも、顕微鏡による微生物状態の診断(検鏡)は、処理異常の兆候を早期に捉えるための有効な手段です。フロック構造や糸状菌の異常などを視覚的に確認することで、処理性能低下や臭気発生の根本要因を素早く見極めることできます。
発生源を特定し、そこで適切な対策を講じることが、臭気対策として最も効果的かつコスト効率に優れた方法です。たとえば、以下のような工程改善が考えられます。
このような工程改善によって臭気の発生そのものを抑制できれば、処理設備への負荷軽減にもつながり、総合的なコスト削減効果が期待できるでしょう。
また、無臭元では、薬剤や活性微生物製剤といった薬品によるアプローチを得意としており、工程ごとの状況に応じて以下のような対策を行うことが可能です。
このように、薬剤や製剤を用いた適切な条件制御によって、臭気の発生そのものを抑制することが可能です。結果として、処理設備への負荷が軽減され、臭気抑制に加え、処理の安定化や維持管理の省力化にもつながります。
排水処理工程を最適化しても、処理の性質上、どうしても一部の臭気物質が発生してしまうケースもあります。そうした場合は、発生した臭気そのものに対して処理手段を講じる直接的なアプローチが有効です。
具体的な対策には、主に以下の3つの方法があります。
対策法 | 説明 | 具体例 |
---|---|---|
物理的処理法 | 臭気物質を物理的な力で分離・除去する方法 |
|
化学的処理法 | 臭気物質を化学反応により分解・中和・変質させて無害化する方法 |
|
生物学的処理法 | 微生物の代謝機能を利用して臭気物質を分解・無害化する方法 |
|
それぞれの処理方法には異なる特徴があるため、臭気の種類や濃度、処理規模、コスト面などを総合的に検討して最適な手法を選択することが大切です。複数の処理法を組み合わせることで、より効果的に臭気対策を行えるでしょう。
排水処理における臭気対策を成功させるには、「目に見えない微生物の世界」にも目を向けることが大切です。活性汚泥中の微生物は、有機物の分解という重要な役割を担っており、その健康状態が処理性能と臭気発生に直接影響するためです。
顕微鏡による微生物診断は、従来の水質分析だけでは見えない微生物の状態を明らかにし、客観的な情報にもとづいた効果的な対策を可能にしてくれます。
ここでは、臭気の根本対策に有効な微生物診断について紹介します。
顕微鏡で微生物を観察することで、通常は目に見えないフロック構造や繊毛虫の活動状況、糸状菌の増殖状態などを視覚的に評価できます。これらの指標は、活性汚泥の状態を直接的に示すものなので、処理機能を評価する上での重要な情報源となります。
排水に含まれる微生物の状態を定期的に観察しておけば、処理異常の兆候をいち早く察知できるため、悪臭の発生を事前に抑制する対策も可能になります。問題が深刻化する前に対策を講じられれば、結果として効率的かつ経済的に排水処理を安定化させ、臭気発生を抑制できます。
微生物診断の結果があれば、その内容にもとづいて具体的な改善策を導きやすくなります。
たとえば、フロック構造の崩壊が観察された場合は「活性微生物製剤の投入」や「曝気条件の最適化」により微生物の再活性化を図ります。糸状菌が優勢となっている場合は、「適切な余剰汚泥の排出」や「栄養バランスの調整」、「薬剤の制御」などによって糸状菌の増殖を抑制します。
このように、観察結果にもとづいて原因を特定し、処理プロセスに適切な対策を講じることで、トラブルに対して高い確実性と再現性をもった改善が可能となります。
排水臭気の問題は、発生してから対処するよりも、事前に予防したほうがはるかに効率的かつ経済的です。日常的に予防管理を行って、トラブルを回避しつつ、安定した処理性能の維持を目指しましょう。
ここでは、排水臭気トラブルを予防するためのポイントを3つ解説します。
日常的なモニタリングは、臭気トラブルの予防において最も重要な要素です。モニタリングには大きく分けて「臭気そのものを対象とする監視」と「排水処理状態を対象とする監視」の2種類があります。
① 臭気モニタリング
これらは「外に出るにおい」の変化を直接把握するための手段です。
② 排水処理モニタリング(臭気発生の予兆把握)
これらは「処理プロセスの異常を早期に検知し、臭気発生を未然に防ぐ」ための手段です。
このように、臭気そのものと、臭気発生につながる処理状態の両方をモニタリングすることで、トラブルを早期に察知し、効率的かつ経済的に対応することができます。
排水処理設備の維持管理は、安定した処理性能を確保し、その結果として臭気発生を未然に防ぐために不可欠です。
まずは設備内部の清掃や汚泥除去を計画的に実施し、汚泥の過剰な蓄積や有機物の腐敗を防ぎましょう。さらに、設備点検を体系化して、機械的トラブルによる処理性能低下を未然に防ぎます。
とくに重要なのは汚泥管理です。適切な頻度で余剰汚泥を引き抜き、汚泥濃度をコントロールすることで処理槽内の微生物バランスを安定化できます。また、必要に応じて薬品や微生物製剤を活用すれば、処理性能の維持・向上につながり、臭気抑制効果も期待できます。
現場従業員の知識と意識の向上も、臭気対策において非常に重要です。臭気の発生メカニズムや関連法規制への理解を促進することで、日常業務における予防的な対応が可能となります。
さらに、緊急時対応訓練も実施して、万が一臭気トラブルが発生したときに備えましょう。従業員一人ひとりが臭気対策の重要性を理解し、積極的に関与することで、対策効果の最大化を目指せます。
ここでは、業界ごとに発生しやすい排水臭気の課題と具体的な対策法を事例とともに紹介します。
酒類製造業では、洗米排水と浸漬排水が主な汚濁負荷源となり、有機物濃度とSS濃度の高い排水が発生します。臭気の主な原因は、高濃度有機物による嫌気発酵での悪臭物質生成、季節による生産量の大幅な変動に伴う処理負荷の急激な変化、栄養バランスの崩れによる微生物活性の低下などです。
有効な対策の一例として、以下のようなものが挙げられます。
とくに、醸造シーズンとオフシーズンでの処理条件の最適化と、微生物の馴化期間を考慮した運転管理が臭気抑制のカギとなります。
野菜漬物製造業では、原料野菜由来の有機物と、米ぬかや酒粕などの基礎材に起因する窒素・リンの増加が特徴的です。臭気の主な原因として、本漬け込み洗浄水での乳酸発酵進行による排出物質の増加、著しく高いCOD・SS値による処理負荷の増大、低pHによる酸性環境での悪臭物質生成などがあります。
有効な対策の一例として、以下のようなものが挙げられます。
また、米ぬかや酒粕由来の窒素・リン過多による栄養バランス調整と、段階的な希釈による急激な負荷変動の緩和も重要な対策となります。
紙・パルプ工業では、使用する原料(広葉樹L材・針葉樹N材)により排水特性が大きく異なります。臭気の主な原因は、N材使用時のCOD除去率低下による未分解有機物の蓄積、BODに対する窒素・リン不足による栄養バランスの崩れ、基質特性や高負荷による糸状菌の異常増殖とバルキング現象などです。
有効な対策の一例として、以下のようなものが挙げられます。
とくに、L材とN材の混合比率に応じた処理条件の最適化と、バルキング対策としての汚泥管理の徹底が臭気抑制において重要となります。
排水臭気の問題は、その複雑性と専門性の高さから、自社だけでの解決が困難な場合も多いです。
無臭元では、長年の経験と豊富な実績にもとづき、現場調査から対策実施、効果検証まで一貫したサポートで臭気問題の解決を支援いたします。
排水プロセスの調査と原因特定を行い、その結果を踏まえて、お客さまの状況に応じた対策提案から段階的な改善策の実施まで、包括的にサポートします。
さまざまな業界の排水臭気問題に対応してきた実績があるため、業界特性を踏まえた最適な解決策の提示が可能です。排水処理に関連する臭気でお困りの際は、ぜひ無臭元までお気軽にご相談ください。
排水処理に関するお問い合わせはこちら