「排水処理施設で汚泥が沈まない」
「処理水質が悪化してキャリーオーバーが起きている」
「活性汚泥が膨張して、固液分離がうまくいかない」
排水処理施設を運営していると、このような問題に直面することがあります。これらの症状は活性汚泥処理における「バルキング」と呼ばれる現象の可能性が高く、適切な対策を講じなければ処理水質の悪化や設備トラブルにつながりかねません。
バルキングは活性汚泥法を採用している多くの排水処理施設で発生する可能性がある現象です。原因を正しく理解し、適切な対策を実施することで、安定した排水処理を維持できます。
本記事では、バルキングの基本的な知識から発生原因、具体的な対策方法まで詳しく解説します。
バルキングとは、活性汚泥法による排水処理において、活性汚泥の沈降性が悪化し、固液分離が困難になる現象を指します。通常、活性汚泥は曝気槽での処理後、沈殿槽で速やかに沈降し、上澄み液と分離されます。
しかし、バルキングが発生すると汚泥が膨張し、沈殿槽での沈降速度が著しく低下します。その結果、処理水に汚泥が混入する「キャリーオーバー」が発生し、放流水質の悪化を招きます。
バルキングは単なる運転上のトラブルではなく、排水処理システム全体の機能不全につながる重大な問題です。発生原因は多岐にわたり、それぞれの原因に応じた対策が必要となります。
バルキングが発生すると、現場では以下のような症状が確認できます。
まず、沈降性を示す、SV30(30分間静置沈降率)やSVI(汚泥容量指数)の値が異常に高くなります。一般的に正常な活性汚泥のSV30は20~30%程度、SVIは80〜150程度ですが、バルキング時にはSV30が50%以上(重度の場合は90%を超えることも)、SVIが200を超える場合もあります。
沈殿槽では、汚泥界面の上昇や処理水への汚泥流出(キャリーオーバー)が発生し、処理水のSS(懸濁物質)濃度が上昇し、透明度が低下して濁った状態になります。
また、曝気槽では泡の発生が増加し、汚泥の色調が変化することもあります。検鏡(顕微鏡観察)では、糸状菌の異常増殖やフロックの微細化・分散など、バルキング特有の特徴が確認できます。これらの所見は、原因診断と対策方針の決定において重要な手がかりとなります。
バルキングは処理水質の悪化だけでなく、さまざまな二次的トラブルを引き起こします。
なかでも深刻なのは、放流水質基準の超過リスクです。キャリーオーバーにより処理水のSS、BOD、COD濃度が上昇し、水質汚濁防止法の規制値を超過する可能性が高まります。これにより、行政指導や改善命令を受ける場合があり、状況によっては、操業の一時的な制限を求められることもあります。
運転管理面では、バルキングの進行により返送汚泥濃度の低下によりMLSS(活性汚泥浮遊物質)の維持が困難になります。F/M比が上昇し、フロック形成や微生物活性にも影響が及ぶことで、処理能力が低下し、さらなる水質悪化を招く悪循環に陥ります。加えて、余剰汚泥の引き抜きが困難になり、汚泥処理設備や脱脂設備への負荷も増大します。
経済面でも多くの負担が発生します。バルキング対策にかかるコスト、負荷の増大に伴う消費電力や、運転管理に要する人件費の増加などが挙げられます。適切な対策を速やかに行うことで、処理水質の安定化や設備トラブルの回避につながれば、結果としてこれらの各種コストの抑制にも寄与します。
バルキングは大きく分けて「糸状性バルキング」と「非糸状性バルキング(粘性バルキング)」の2つのタイプに分類されます。それぞれ発生メカニズムが異なるため、対策方法も変わってきます。
ここでは、各タイプの特徴と見分け方について詳しく解説します。
糸状性バルキングは、糸状菌(糸状細菌)が異常増殖することでフロックの構造が乱れ、沈降性が悪化する現象です。糸状菌は正常な活性汚泥にも存在しますが、特定の条件下で過剰に増殖すると、汚泥フロックの構造を変化させます。
糸状菌が増殖すると、汚泥フロックから糸状の菌体が突出し傘状構造を形成し、フロックが大きく広がることで密度が低下し、沈降性が悪化します。顕微鏡で観察すると、綿くずのような糸状の微生物が網目状に広がっている様子が確認できます。
主な糸状菌の種類と特徴は以下のとおりです。
糸状菌の種類 | 特徴 | 増殖しやすい条件 |
|---|---|---|
Type 021N (タイプ ゼロ・ツー・ワン・エヌ) | 国内で最も一般的なバルキング原因菌。糸状体幅1-2μm | 低負荷、溶解性BOD流入、栄養不均衡 |
Sphaerotilus natans | 鞘を持つ糸状菌。分枝あり | DO不足、栄養不足(リン) |
Thiothrix | 硫黄粒を蓄積。白色のフロック形成 | 硫化物含有排水、DO変動 |
Microthrix parvicella (マイクロスリックス・パルビセラ) | 低温性糸状菌。疎水性が高く、油脂吸着性あり | 低水温(10℃以下)、油脂含有 |
(参考:MDPI「History of the Study of the Genus Thiothrix」、IWA Publishing「Influence of temperature and sludge loading on activated sludge settling」)
非糸状性バルキングは、糸状菌の異常増殖を伴わず、活性汚泥が過剰な粘性物質(主に多糖類)を産生することで沈降性が著しく低下する現象です。このことから、「粘性バルキング」とも呼ばれます。
このタイプのバルキングでは、汚泥フロックが微細化し、水中に分散しやすくなることで凝集性が低下し、沈殿槽での固液分離が困難になります。汚泥は粘度が高く、沈降時にも粘性を保つため、SSの上昇や処理水の濁度悪化を引き起こす原因となります。
非糸状性バルキングの特徴は以下のとおりです。
非糸状性バルキングは糸状性バルキングに比べて対策が難しく、発生原因の特定も困難な場合が多い傾向があります。とくに急激な有機負荷変動、、C/N/Pの栄養バランスの乱れ、重金属・界面活性剤の流入などが発生要因として報告されています。
バルキングは排水処理施設において広く見られる現象であり、多くの場合、発生原因は複雑で、単一ではなく複数の要因が組み合わさって引き起こされます。原因を正確に把握することで、適切な予防策や改善に向けた対策を講じることができます。
ここでは、バルキングを引き起こす主要な原因について詳しく解説します。
活性汚泥に供給される有機物の量(BOD負荷)が適正範囲を外れると、微生物群のバランスが崩れ、バルキングが発生しやすくなります。
適正な管理のためのポイントは以下のとおりです。
曝気槽内の溶存酸素濃度が低下すると、好気性微生物の活動が低下し、糸状菌が増殖しやすい環境になります。とくに、DO濃度が0.5mg/L以下になると、糸状性バルキングのリスクが急激に高まります。
DO不足は以下のような状況で発生します。
まず、曝気装置の能力不足や故障により、十分な酸素供給ができない場合があります。散気管の目詰まりや、ブロワーの経年劣化などが原因となることが多いです。
また、有機物負荷の急激な増加により、酸素消費量が供給量を上回ることもあります。製造工程の変更や季節的な負荷変動などに注意が必要です。
水温上昇による酸素溶解度の低下も要因の一つです。夏季には水温が30℃を超えることもあり、酸素の飽和溶解度が低下するため、同じ曝気量でもDO濃度が低下します。
微生物の安定した代謝には、炭素源(BOD)だけでなく、窒素(N)やリン(P)などの栄養素が適切な比率で必要です。一般的に、BOD:N:P=100:5:1の比率が理想的とされています(参考:環境省「基礎技術編」)。
窒素やリンが不足すると、微生物の正常な増殖が阻害され、糸状菌が優位になりやすくなります。とくに食品・飲料系工場など、有機物濃度は高いが栄養塩類が少ないなど栄養バランスに偏りのある排水には注意が必要です。
栄養不足の兆候として、以下のような現象が観察されます。
汚泥の増殖速度の低下、BOD除去率の悪化
pH値の変動も重要な要因です。活性汚泥の適正範囲はpH6.5~7.5程度ですが、この範囲を外れると微生物の活性が低下します。とくにpHが5.5以下に低下すると、一部の真菌や糸状菌が優勢になりやすくなります。
水温の影響も大きく、冬季や夏季の極端な水温変動は、微生物相に影響を及ぼします。
流入基質の特性も重要です。管渠内での有機酸・硫化物の生成やSS低下による溶解性BODの増加などは、特定の糸状菌(たとえばType 021N)の増殖を促すことがあります。また、分流式下水では、SS分の流入が減少して溶解性有機物が主体となり、糸状菌の増殖に有利な条件となります。
排水処理施設では、こうした多様な原因が複雑に絡み合うため、汚泥性状の診断や水質モニタリングと合わせた対策設計が不可欠です。
バルキングが発生した場合、施設運転の安定性や水質管理に大きな影響を与えるため、早期かつ的確な対応が求められます。対応策は、発生原因や施設の状況に応じて選択する必要があります。緊急的な対策から根本的な解決まで、段階的なアプローチが重要です。
ここでは、実践的な対策方法を具体的に解説します。
バルキングが顕在化して処理水のSS濃度が上昇しているような場合、凝集剤による沈降性の一時的改善が有効です。
無臭元シュアーMGなどの凝集剤は、即効性があり、短期間で沈降性を改善できます。使用方法は以下のとおりです。
また、ポリ塩化アルミニウム(PAC)や高分子凝集剤も併用可能ですが、以下の点に注意が必要です。
あくまで応急処置であり、根本的な原因の把握および対策の並行実施が重要です。
バルキングを恒常的に抑制するには、以下の運転管理項目を見直し、バランスよく維持することが求められます。
DO管理については、曝気槽のDO濃度を1.0〜2.0mg/Lに維持することが基本です。具体的には以下の対策を実施します。
SRT(汚泥滞留時間)の調整も重要です。余剰汚泥の引き抜き量を調整し、MLSS濃度を2,000~4,000mg/Lの適正範囲に維持します。汚泥の更新を促進することで、糸状菌の選択的な排出も期待できます。
F/M比の適正化については、以下の管理が必要です。
管理項目 | 推奨目標値(参考例) | 管理方法(主な対応策) |
|---|---|---|
F/M比 | 0.2~0.4 kg-BOD/kg-MLSS・日 | 流入負荷とMLSS濃度の調整 |
MLSS濃度 | 2,000~4,000mg/L(施設特性により変動) | 余剰汚泥引抜量の調整 |
SRT | 3~7日(下水処理施設の場合) | 汚泥滞留時間の管理 |
DO | 1.0~2.0mg/L | 散気装置の定期洗浄、曝気量調整 |
運転条件の最適化と並行して、各種薬品の使用も効果的です。
糸状菌対策として殺菌剤に次亜塩素酸ナトリウムを使用するのも一つの手段です。
ただし、過剰な使用は正常な活性汚泥も殺菌してしまうため、低濃度(0.5〜1.0mg/L程度)から開始し、効果を確認しながら調整するなど慎重な管理が必要です。
<注意点>
栄養塩不足対策として栄養剤の添加を行う方法もあります。栄養バランスの崩れが原因でフロック形成が不良になっている場合に有効です。
栄養素 | 代表的な薬剤 | 補足 |
窒素源 | 尿素、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム | 費用対効果に応じて選定 |
リン源 | リン酸、リン酸ナトリウム | 水溶性・無機リン酸塩が一般的 |
BOD:N:P=100:5:1の比率を目安に添加量を決定しますが、過剰な添加は放流水質の悪化につながるため、段階的に調整することが重要です。
粘性バルキングに伴う泡立ち対策として、消泡剤を用いる方法があります。粘性バルキングにより泡立ちが著しい場合は、シリコーン系消泡剤を用いた泡の抑制が短期的な安定化対策となります。
例:曝気槽表面に直接散布、あるいは循環ラインへ定量添加
消泡効果の即時性がメリットですが、根本的な解決には必ず原因調査および対策実施が必要です。
バルキング対策の中長期的なアプローチとして、活性微生物製剤を用いた対策も有効です。
無臭元シュアー100Kは、標準活性汚泥処理を行う施設におけるバルキング現象の防止および解消を目的として開発された活性微生物製剤です。配合微生物の働きにより、フロックの圧密性が増大するとともに、フロック形成細菌の有機物獲得能が高められ、糸状菌との競合関係において有利になります。
活性微生物製剤のメリットは以下のとおりです。
使用方法は、バルキング解消目的の場合、1日あたり総MLSSの1%量を、連続してSRTの日数添加します(下水では3~7日程度)。バルキング防止目的では、1日あたり総MLSSの0.2%量を継続添加します。
導入時の添加方法例は下記のとおりです。
目的 | 添加量(MLSS比) | 添加期間の目安 |
解消目的 | MLSSの約1%/日 | SRT相当日数(例:3〜7日) |
予防目的 | MLSSの約0.2%/日 | 継続使用 |
長期的な対策として、設備の改良や追加も検討する価値があります。
セレクター(選択反応槽)の設置は、効果的な対策の一つです。曝気槽の前段に嫌気槽や無酸素槽(セレクター)を設置することで、糸状菌の増殖を抑制できます。セレクターでは、通常の活性汚泥微生物が有機物を優先的に摂取し、糸状菌との競争に勝つことができます。
曝気方式の見直しも選択肢となります。全面曝気から段階曝気やプラグフロー型への変更により、酸素分布と有機物負荷の均一化が可能になり、糸状菌の増殖を抑制できる場合があります。
前処理設備の充実も重要です。有機酸などをスクリーンや沈砂池、油水分離装置などで前処理することで、活性汚泥への負荷を軽減できます。とくに、溶解性BODの流入を抑制することで、糸状菌の増殖を防ぐ効果が期待できます。
バルキングの発生要因や対策方法は、業種によって異なる傾向があります。
ここでは、代表的な業種での対策事例を紹介します。
下水処理場では、Type 021Nによる糸状性バルキングが多く見られます。
【課題】
ある下水処理場において、SVIが1,000を超える重度のバルキングが発生。顕微鏡観察により、糸状菌「Type 021N」の異常増殖が確認された。
【対応策】
【結果】
約2週間でSVIは200以下に改善。予防的処置として無臭元シュアー100KをMLSSの0.2%/日で継続添加することで、バルキングの再発を防ぎ、安定した運転を維持している。
食品工場では、栄養バランスの崩れによるバルキングが発生しやすい傾向があります。
【課題】
ある菓子製造工場にて、季節商品の製造ピーク時に粘性バルキングが発生。原因調査の結果、高濃度の糖分を含む排水により、BOD:N:P比が100:2:0.3と著しく栄養塩不足の状態であることが判明した。
【対応策】
【結果】
約1週間で汚泥の沈降性および水質が改善。以後は、製造計画に基づいた年間プログラムを作成し、予防的な対策を実施し、処理水質の安定化を行っている。
産業排水処理施設では、業種特有の阻害物質によるバルキングが発生することがあります。
【課題】
ある化学工場にて、殺菌剤を含む排水の流入により、活性汚泥の微生物バランスが崩れ、糸状性バルキングが頻発。
【対応策】
【結果】
バルキングの発生頻度が大幅に減少。長期的な安定運転を実現している。
無臭元では、60年以上にわたる排水処理技術の蓄積と現場経験により、バルキング対策にも精通しています。
お客さまの施設特性や排水性状に応じた最適なソリューションを提案し、安定した排水処理の実現をサポートします。
バルキング対策製品は、用途や対象に応じて使い分けることが重要です。
無臭元の主要製品と特徴は以下のとおりです。
製品名 | 用途 | 特徴 |
|---|---|---|
無臭元シュアーMG | 緊急対策用凝集剤 | 即効性があり、短期間で沈降性を改善 |
無臭元シュアー100K | 活性微生物製剤 | 沈降性の安定化を図る。Type 021Nによるバルキングにとくに効果的 |
メルトラーゼシリーズ | 活性微生物製剤 | 栄養バランス改善と微生物相の再構築などに |
各製品は、単独使用だけでなく、組み合わせることで相乗効果を発揮します。たとえば、緊急時には無臭元シュアーMGで即座に対応し、並行して無臭元シュアー100Kで根本対策を行い、中長期的な運転安定化を図るという使い方が効果的です。
薬剤は適切な使用対象や使用方法により最大限の効果を発揮するため、製品提供だけでなく、実際の現場での導入支援や継続的な運用サポート体制も整えています。
バルキングは排水処理施設における重大な運転障害のひとつですが、原因を適切に把握し、効果的な対策を講じることで改善は可能です。ただし、その原因は複数あり、施設の処理条件によって最適な対応が異なるため、専門的な知見に基づいた判断が求められます。
無臭元では、長年の経験と実績に基づく、排水処理に関する技術とノウハウを活かし、バルキング対策を含む排水処理のさまざまな課題解決をサポートしています。
無臭元の強みは、次のような現場の課題に即した総合的な対応力です。
排水処理施設で「汚泥が沈まない」「処理水質が不安定」といった兆候がある場合は、バルキングの前兆である可能性もあります。
バルキングなど排水処理でお困りの際は、ぜひ無臭元にご相談ください。豊富な実績と確かな技術力で、安定した排水処理施設の運転維持管理を支援します。
ご相談はこちらから
※本記事内で示している添加量や添加方法は一例であり、すべての処理条件に当てはまるものではありません。実際の運用にあたっては、処理方式や負荷状況、汚泥性状などを踏まえ、お客さまごとの状況に応じて適切な条件を設定する必要がありますので、あくまで参考情報としてご覧ください。